(架空法律相談事例)
 今度,引っ越しをすることになりました。入居時に敷金を納めていましたが,アパートの大家(貸主)さんからクロスや天井のカビをキレイにするための修繕費と敷金と相殺したため,返金できないと言われました。
 入居していたアパートは、建物の構造上,常にドアの内側や押し入れの中に結露をしていました。換気扇を回したり押し入れのドアを開放して湿気がこもらないようにするなどできる限りの努力はしました。しかし、目の行き届かないクロスや天井にカビが発生し,このカビを取り除く努力もしましたが,取ることができません。なお、入居時に結露について大家さんから注意を受けるようなこともありませんでした。
 このような場合でもクロスや天井のカビの修繕費用について,負担する必要がありますか。
(回答)
1 賃借人は,アパート(賃貸物件)について,アパートの明渡時に原状回復義務を負います。裁判所は、「原状回復」とは,建物の通常損耗分をもとの状態に回復することではなく,賃借人の故意・過失等による劣化の回復を意味するとの判断を示してきました。これは通常の損耗については原則として,家賃にてその修繕費用等も含まれていると考えているからです。(何が通常損耗に該当するか等については国土交通省がガイドラインを出しています。)
 そうすると,通常損耗に該当する損失については,原則として借主は負担することが無い事になります。しかし,ここで問題となるのは,こういった通常損耗についても借主側が負担する特約を付されている場合です。裁判例によると,①特約の必要性があり、かつ、②暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること③賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること④賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることなどを要件として,このような通常損耗特約を有効としています。
2 本件の相談者さんの場合,建物の構造上結露が生じやすく,通常用いる用法で行っても生じるものとして,通常損耗と言える可能性が高いと思われます。そのため、原則として借主側が負担すべきとは言えない可能性が高いです。しかし、通常損耗について借主が負担する特約を締結していれば、これが上記の要件を満たしていれば、借主が負担する可能性がありますので、注意が必要です。